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★★製薬会社★★

薬学部を卒業して最初に就職したのは某製薬会社。薬の生産に関わる研究部門の仕事でした。製薬会社なので薬学部卒業生も多かったですが、薬学部に限らず理学部等の理系専門課程を修めた人たちが一緒に働いていました。学生時代は卒業試験や国家試験対策とひたすら試験に追われていたので、就職して家で試験勉強をしなくてよくなったというのが非常に解放された感がありました。
薬の開発は候補物質を見つけてから販売まで大変長期間かかります。候補物質の探索など高度な知識が必要な研究は博士課程を修めた人ばかりで、学部卒の私のような社員はもっと販売間近の段階を担当していました。






★★薬の開発★★

創薬と言われる基礎研究では薬となる可能性のある物質を天然素材から探索したり化学合成、バイオテクノロジーによる合成をして物性や薬効などを細かく研究し候補物質を絞り込んでいきます(2〜3年程度)。次に動物や細胞を使った実験などで薬物動態や薬効を確認したり、毒性や安全性、安定性、品質、製法などの研究を行います(非臨床研究、3〜5年程度)。そしてその物質が人間に有効か、安全かを確認する臨床試験(治験)に進みます。臨床試験はまず健康な人を対象に薬物動態や安全性等を確認する第1相試験、少数の患者を対象に有効性、安全性等を確認する第2相試験、更により多くの患者を対象に既存薬との比較を含めた様々な確認を行う第3相試験まで行います(3〜7年程度)。そして全てのデータをまとめて申請する作業も膨大です。申請・承認まで更に1〜2年。とにかく長い期間要します。実際に申請まで到達する物質はほんの一握りで、大半の物質は途中でボツになります。薬の開発は本当にお金も時間も多大にかかるものです。後発医薬品はこの開発部分の大半が不要なため薬価が安いということになります。

 




★★マイクロピペット★★

配属後初めての作業はマイクロピペットの使い方の練習でした。バイオ系の仕事だったので、扱う液量がμLオーダーの精密な容量を測ることが必要な実験がほとんどでした。ということでまずはマイクロピペットで正しく200μLを量る練習です。水の密度は約1なので、マイクロピペットで蒸留水を200μL採取し、その重量を天秤で測るというものです。天秤もセミミクロ天秤という非常に精密な重量を測定出来るもので、気温や湿度の影響も受けるため、天秤室という秤量専門の部屋がありました(天秤が沢山置いてある)。除湿しており気温も低めで長時間いると寒くて凍えてしまいます。水の密度は実際には液温によって変わりますが、20℃なら0. 998233(g/mL)となり、秤量値(g)を使用した水の温度に応じた密度で補正して容量(μL)を計算します。ドラマの「科捜研の女」や「CSI」などを見てるとよくマイクロピペット使ってます。これが正しく使えないと仕事にならない基本中の基本です。






★★危険物取扱者★★

研究で多用する有機溶媒などには、消防法で危険物と指定されているものが多くあります。これは人体に対する危険ではなく、引火性・爆発性による火事の危険がある物質ということです。これらは保管量や管理に関して非常に厳しい規制があります。実験には必需品であるものが多いので、あまり気にせず使っている場合も多いのですが、一応管理担当・責任者はこのような規制に関する知識を持っていなければいけないので、危険物取扱者甲種という免許を取得しました。危険物には第1類〜第6類まであり、一番多用されるのが第4類の引火性液体です。ガソリンや灯油なども第4類です。免許には甲種・乙種・丙種とあり、甲種は全ての危険物の取り扱いが可能です。研究所ではやはり第4類が一番多いのですが、それ以外の危険物も取り扱うため甲種免許を取りました。一般社会ではガソリンスタンドやタンクローリーなど第4類危険物の取り扱いが圧倒的に多いため、第4類のみを取り扱うことが出来る乙種第4類という免許を取る人が多いようです。試験項目は法令、物理化学、危険物の性質等という3科目。物理化学や危険物そのものに関する問題はもともとある程度知識があるためそこまで大変ではなかったのですが、消防法令は細かく全てを覚えなければいけないのでかなり苦労しました。実際の管理では、危険物の保管量の上限があるので、それを超えないように全体を管理しなければならず、扱う種類・量が多いので管理システムを入れたりと色々工夫が必要でした。抜き打ちで消防署の査察などもありました。








★★社内クラブ活動★★

所属していた事業所は工場もあり従業員数が多かったので福利厚生費を使ったクラブ活動がいくつかありました。職場の先輩に誘われて華道部に入り、週1回終業後にお花のレッスンを受けてました。華道は流派が色々ありますが、私が習っていたのは小原流です。仕事が忙しいと行けないことも多かったのですが、細々と続けていました。華道を少しでも習うと、花瓶にお花を飾るだけでも華道の基礎を意識して美しくいけることが出来るので、一目で華道の経験者かどうか分かると先生が言ってました。数年に1度花展への出展があり、デパートの催事場で展示することもありました。

花展に出した展示  
   





★★英語★★

研究職に英語力は必須です。論文は英語だし、場合によっては英語で報告書等も書かなければいけないし、英語の会議というのもあります。しかし入社当初は本当に英語が嫌いで、苦手意識も強く全く出来ませんでした。通信教育などで自力で何をしてもあまり変わらず、少し集中して勉強しようということで、約2年間終業後に週2回で英会話学校に通いました。火曜日と金曜日に行ってましたが、その日は一切残業出来ないので、仕事の調整はそれなりに大変でした。一年目は厚生労働省の教育訓練給付金対象の講座で、今は色々制度も変わってますが、当時は1年間の授業の8割以上出席すれば給付金を受け取れるというものでした。生徒数10人弱で、先生は前半が日本人講師で文法等が中心、後半が外国人講師で会話中心という形式で計90分の授業でした。週2回一緒に勉強するので、先生やクラスメイトとはかなり親しくなりました。この1年間でTOEICの点数は100点以上上がりましたので、効果はあったと思います。授業の内容を振り返ると、文法の内容などは中学校レベルで、大体は既に知ってる内容なのですが、それを再認識し使い方や会話を学ぶことで、英語がすんなり入ってくるようになったと思います。とにかく仲間と楽しく学べたので、英語に対する嫌悪感を取り除けただけでも大きかったです。更にもう1年同じ学校に通って、仕事での英語もなんとかこなせるようになっていきました。そこそこの英語力はつきましたが、後にイギリスで生活をした時は、ネイティブのスピードについて行くのがやはり大変で、最初は全然聞き取れませんでした。知ってる単語だけで構成された文章でも頭の中で一つ一つ日本語に置き換えてたら全然間に合わず、結局何を言ってるのかが分からないという状態になってしまいます。やはり英語のまま意味を理解するというのがスピードについていくためには重要です。英語圏で生活してるとだんだんと慣れていき訓練されていきますが、帰国してそこから離れるとどんどん英語力は落ちていきました。語学は本当に使わないと忘れます。



★★調剤薬局★★

海外生活を終えて帰国する頃には大学卒業から長期間経過しており、そこから薬剤師として働くには色々勉強しなおす必要がありました。製薬会社時代に扱った物質などに関する知識は相当あっても、それ以外は学生時代に習ったきりでスッカリ忘れているし、更に科学は日々進歩しているので新しい内容も山ほどあります。ということで、調剤薬局で働きながら再度勉強の日々ということになりました。






★★認定薬剤師★★

一定の期間、集合研修や自己研修により、定められた単位を取得し、「自己研鑽により資質向上努力を継続している薬剤師」として、有効期限を設けた証明を受ける事ができる制度を「認定薬剤師制度」といいます。初回認定に40単位、その後3年毎に30単位取得で更新を続けていきます。認定薬剤師認証研修機関がいくつかあるのでそこが提供する研修を選んで受けます。受講から単位発行まで時間がかかる場合もあるのであまりギリギリにならないように常に受け続ける必要があります。内容を見て実際に業務に役立つ研修(e-Learningも含)を受けるようにしています。コロナ以降はオンラインの受講が一般的になり、受ける方としては負担が少なくなりました。







★★医薬分業★★

その昔は病院やクリニックの中に薬局があり薬剤師が診察後に薬を出してくれるという形が多かったわけですが、それではあちこちの病院で薬をもらって重複や飲み合わせのチェック等が出来ない、調剤料も病院の収益となり薬の過剰処方になりやすいといった問題がありました。そこで医薬分業ということで、病院では処方箋発行のみを行い、薬は外部の調剤薬局でもらうという形が定着してきました。しかし、現状どのクリニックもすぐ傍に1軒調剤薬局があり、患者は結局あちこちのクリニックで診察後その傍の薬局で薬をもらうという状態が多く、お薬手帳が普及し薬剤師がある程度把握できるようにはなりましたが、医薬分業が求めていた形(患者がかかりつけの薬局を1軒もち、どこの病院の処方箋もそこに持ち込んで薬をもらう)とはちょっと違ってしまっている部分もあると思われます。今後は在宅医療対応なども増えてくるでしょうし、デジタル化も進みこれから色々と変化していくのだろうと思います。



 


★★新型コロナ★★
2020年に新型コロナウイルスが国内に入ってきて、当初分からないことだらけの新感染症に戸惑いつつも薬局という医療現場で過ごしてきました。コロナが来る前から冬場はインフルエンザが毎年猛威を奮っており、予防接種とマスク、消毒といった基本的な感染対策は常に行っていました。マスク不足で大騒ぎとなった初期の頃も、いつもの冬対策ということでマスクは沢山買ってあったのでなくなることはなかったですが、流通が復活するまでちょっと不安ではありました。手指消毒液はエタノールとグリセリンを買って自作していました。エタノールも不足してましたが、工業用の無水エタノールがネットで手に入ったのでそれを使っていました。




消毒液のレシピ
無水エタノール 70ml
水道水 30ml
グリセリン 小匙1杯

無水エタノールはエタノール99.5%のもので、そのままだと消毒作用を発揮する前に蒸発してしまうため水で薄めて70%程度にするとちょうどよくなります。そして手荒れ防止のために、保湿力のあるグリセリンを少し加えます。グリセリンは特に不足になってなかったため、エタノールさえ入手出来れば自分で作れました。職業柄こういった調製は慣れてますが、自宅にある計量器具と言えば調理用の計量カップ位で、それだとさすがに精密さに欠けるので、ネットでメスシリンダー等を購入しました。このような専門器具が個人で手軽に購入出来るというのも昔は考えられなかったです。





★★情報リテラシー★★

ネット上には様々な情報が溢れています。報道機関と違って自由に個人で発信できるSNSや動画サイトなどで、何の裏取りもなく発信されている内容が果たして真実なのかどうか見極めるのは非常に難しいと思います。権威のある人が発信しているからといって正しいとも限らないし、発信者としては真実と信じて発信している場合も多いので、見る方も信じやすくとても危うい面があります。コロナを含む医療情報を正しく理解するためには、論文化されているか否かを一つの指標として見ています。論文化されているものは査読も通ってある程度の精度があるものが多いので、根拠論文がリンクで貼ってあるかどうかを必ず見て、出来れば論文まで読むことが出来ればベストです。当然英語の論文になるのでハードルは高いですが、論文は全部読まなくても冒頭に要約がありますので、そこだけでも読めると色々と分かることがあります。












★★薬不足★★
薬の値段は国が決めることになっています。製薬会社は原料費等が上がったからと言って勝手に値上げは出来ない上、薬価は逆に毎年のように下げられるため、売れても赤字という薬も珍しくありません。薬は命に関わるものですから、採算の取れない商品は製造中止とかもなかなか出来ないので、製薬会社はロスのないようにギリギリの出荷量しか作れなくなります。そこで何かトラブルでもあって出荷が止まったりすると、余剰がないため社会全体で流通が不安定となり、特にコロナや風邪が流行ると需要が予想以上に増えて、薬が全く足りない状態となってしまいます。風邪関連の薬は常時不足気味ですが、風邪に限らず様々な領域の薬が何かしら出荷制限や出荷停止で不足になっており、医師も薬局も薬不足には本当に悩まされます。

 





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